和亀保護の会

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 何故ナンバリングを行うのか 〜私たちの経験から〜 



カメに限らず、生物の個体識別を行うにはナンバリングが有効な手段である。
「和亀保護の会」では、活動当初から個体識別のために縁甲板に穴をあけている。

 


ナンバリングは非常に重要であるという認識があったので、会員には反対する者はいなかったが、結果的にカメの体を傷つける行為に何の抵抗もなかったわけではなかった。
にもかかわらず、やはり穴あけを敢行したのはそれなりの理由があるからである。

「和亀保護の会」の前身である「かめライフ」では、2003年度、川に棲息しているカメの数を3000頭以上と報告している。↓

 

 2003年、3月13日から、11月28日までの期間で、199回の捕獲調査の結果。

 捕獲調査員、6人、
 清掃活動員、のべ、422人。
 活動範囲は、大正川、すべての流域約3q。
 天候、時間帯に、関係なく、
 すべて、手づかみでの調査。

 総捕獲数 4412匹

 識別個体数(再捕獲した個体をのぞく)

 アカミミガメ  1707匹(52.91%)
 クサガメ  1150匹(35.68%)
 イシガメ  287匹(8.90%)
 ウンキュウ  63匹(1.95%)
 スッポン  17匹(0.53%)
 アカハラガメ  1匹(0.03%)
 キバラガメ  1匹(0.03%)
 計 3226匹
                    (2003年度 捕獲調査最終結果 2004/03/03より)

 

その個体識別は当時の代表が一手に引き受けていたが、捕獲したカメの甲羅の傷や形で、以前に見た記憶のあるカメは再捕獲、見たことのないカメは新捕獲とカウントするものであった。後に一部デジカメで映像を残すようになったが、基本的にはナンバリングを行わないで判断された。しかし、このような個体識別の方法では、正確な個体数や個体の情報を得ることができないことが会の内外から指摘された。
 例えば研究発表の場である「日本カメ会議」において、「かめライフ」の出した数字はその個体識別の方法のために疑問視された。「かめライフ」の活動回数はその時集まったどのグループよりも多かったが、データはどのグループよりも信頼性に欠けるものとなってしまった。信頼性に欠けるデータはそれまでの会員の苦労と活動自体の意味を水の泡にするものであることを痛感した。

この 信頼性の揺らぎは、会が自ら出した再捕獲のデータからも伺える。
何度も調査を続けているにも関わらず、再捕獲率が30パーセントにも至っていない。

 


 再捕獲数 

 アカミミガメ  628匹(52.95%)
 クサガメ  485匹(40.89%)
 イシガメ  62匹(5.23%)
 ウンキュウ  9匹(0.76%)
 キバラガメ  2匹(0.17%)
 計 1186匹

 再捕獲率 26.88%
                     (2003年度 捕獲調査最終結果 2004/03/03より)
 

普通、同一地域で捕獲調査を重ねていると、次第に再捕獲率は上がっていくものである。川は閉じた環境ではないので、もちろん新しいカメが調査地の外から入ってくることもあるが、いずれにしても20数パーセントという低率で止まることはない。これは実際には再捕獲のカメを、新捕獲だと判断ミスしたものが相当数あるからだと考えられる。

さらに会員の間で、果たして調査地域に3000頭ものカメを十分養えるだけの餌が存在するかという問題も議論された。
後に愛知学泉大学の矢部助教授に実際に川に同行していただいて見解を仰いだ。

 


れによると、調査地の周辺(約2キロ)に棲息しているカメは、多く見積もって数百のレベルだろうということである。 3000というのは、やはりあり得ない数字なのであった。

「かめライフ」から「和亀保護の会」へ会の名称や組織を改めた際、今までの科学的とはいえない手法についても深く自己反省し、真にカメの保護を行うには何をすべきなのかということが議論された。
「保護」という言葉を掲げる以上、カメの棲息数を減少させるわけにはいかない。カメの数を維持、そして増加させるためには川の環境をよくするための活動が行われなくてはならないが、実際の棲息数もハッキリしないのでは、行った活動が有効であるかそうでないかもわからない。例えば、「川の清掃」というと普通は保護につながると考えられるが、やり方によっては中洲を壊すなどして棲息環境を悪化させることもあり得る。よいことをしているつもりで結果的にはカメのためにならないという状況も考えられる。しかし正確な棲息数を把握していれば、カメの数の変化(増加や減少)によって活動の成功や失敗を知ることができ、失敗なら活動のやり方をいち早く修正することもできるのである。
イメージだけで行われた「保護」は傲慢に流れ、自己満足に終わることが多々ある。
私たちは実質的な「保護」をめざして、正確な数字を出していきたいと考えた。
つまり、誰が見てもはっきりと個体識別できる「ナンバリング」を地道にやっていくことに決めたのである。

さて、ナンバリングすることによって信頼できる数字を出すことは、公の場で力を持つものである。感情論や信頼性に欠けるデータでは、税金を使って奉仕するお役所を動かすことはできない。在来種のカメの窮状を訴え力添えを願うには、何よりも信頼できるデータの蓄積とその公表が有効だろう。これからは研究発表の場でデータを公表するだけでなく、川の環境保全のためにも、行政にも積極的にアピールしていきたいと考えている。

もう一つ、ナンバリングは私たちのやる気にもつながるという事実も紹介しておきたい。
2003.10.19、甲板がひび割れたメスのクサガメを捕獲した。



多量の出血があり弱っていたが、私たちにはなす術がなくそのまま放流した。
ところが翌年、傷が癒えて元気になった彼女を再捕獲し、21番の穴をあけた。

  


川では相変わらず傷を負ったカメを何度も発見するが、
番号のおかげで彼女を見間違うことはない。
その後彼女は調査をすれば2回に1度は顔を見せてくれるようになった。
冬眠前もさほど体重の減少もなく元気な姿を見せてくれた。


 2004年12月19日

彼女が元気でまた来年もたくさん卵を産めるように、その卵が孵化して無事成長するように、私たちの保護・調査活動にも力が入るのである。
                                          (文責:西堀智子)