和亀保護の会

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マイクロチップの安全性

マイクロチップの利点と手順

フィールド・
ノート

 マイクロチップの使用へ

 
  淡水ガメのナンバリングの場合、欧米や日本では一般的にドリルで縁甲板に穴をあ
けるという方法が取られている。カメの命を危険にさらすことなく簡易にできるという認識があり、「和亀保護の会」もその方法を取り入れてきた。しかし問題がいくつかある。

(1) 生命に影響が ないとはいえ、穴あけ行為は大なり小なりカメの体に負担を
   強いてしまう(脚注1)。

(2) 体の大きいカメについてはほとんど問題はないが、孵化したてのカメや性が判
    断できないくらいの幼体のカメでは、ドリルによる穴あけは心理的にも技術的にも
   困難(脚注2)。

(3) ナンバリングをしたカメの数が増えていくと、あけ る穴の数も増やさなければなら
   ない。技術の未熟なものがナンバリングした場合は、 カメの体力を奪ってしまうことも   
   考えられる。

(4) 縁甲板の穴は泥で埋まって番号の読み誤りの元になったり、穴の部分から欠 けて
   番号が読み取れなくなったりすることも考えられる。
   特に私たちの調査地はカメ の甲羅を傷つける原因になるようなゴミが多い。
   したがって環境のよい他の川に較べ て、ゴミが穴に引っかかって甲羅を割ってしまう  
   可能性がかなり高いと考えられる。

そこでこのような問題点を解決すべく、姫路市立水族館の栃本館長から提案をいただいていたマイクロチップの導入(脚注3)について検討を行った。
マイクロチップは直径2ミリ、長さ11ミリほどの小さなICチップで、
それぞれ番号が記憶されており、読み取り器によってその番号を読み取ることができる。

マイクロチップ
(動物用 標識用器具 AEGトロンID162A(ISO規格)↓

動物用穿刺針トローバンID-100↑

読み取り器(Pocket Reader LID570 TROVAN)


マイクロチップは動物の生態研究の場でも個体識別のために使われることがあり、
よく知られているところではウミガメがその対象となっている。何歳で成熟するのか、
どれくらいの確立で親ガメになれるのか、本当に生まれた浜に帰ってきて産卵するの
か、どこを回遊しているのか、寿命は何歳なのかなど、子ガメにマイクロチップを埋
め込むことによって調査が進められている。淡水のカメではスッポンに用いられてい
る例があるが、クサガメやイシガメについては日本でまだ使用の報告がない。そこで、
使用に当たって特に考えなければならないことが、その埋め込み部位と安全性につい
てであった。

マイクロチップの埋め込み部位については、本来は使用が先行しているスッポンと
同位置に統一することが好ましい。スッポンの場合は鼠蹊部からブリッジに向けて埋
め込んでおり、ソフトシェルであるためにチップが体腔に深く入り込んでも読み取る
ことができる。しかしイシガメやクサガメの場合、そこは固い甲羅のために携帯用の
読みとり器では識別番号の読みとりが困難になる。そこで、それ以外の部分でカメの
動きに支障が出ないように専門家の意見を聞き、最終的に尾の右側から後肢の方向に
埋め込むことに決めた。

もう一つの問題は安全性であるが、マイクロチップ導入の提案をいただいた姫路市立水
族館の栃本先生は、他の動物の例から「まず問題はない」との見解を示されている。
また研究材料として爬虫類を扱う獣医の先生にも意見を求めたところ、「穴あけによ
るナンバリングよりも安全と思われる」との答えをいただいた。さらに、清心女子高
校の秋山教諭が行っているアカハライモリの調査では、チップの埋め込みによる死亡
例もなく、また2カ月間の実験室内での飼育でも死亡例、チップの脱落ともになかっ
たという報告がある。体長数センチのアカハライモリでも問題が生じないということ
から、硬い甲羅を持つカメでは(孵化後間もないような個体を除いて)ほぼ問題はな
いと考えられる。

しかしチップを埋め込むこと自体に問題はないにしても、埋め込み時の針の穴から の細菌感染については別に検討の必要がある。これについては姫路市立水族館のオオサン ショウウオの生態調査の例が参考になった。それによるとマイクロチップ使用当初は 水産用イソジン塗布で細菌感染予防に対応していたが、針の穴とは比較にならないほ どの大きさの傷を負っても治癒していく例が多数観察されたために、外科用の瞬間接着 剤を使用することで傷口の封鎖を行い、現在はイソジン塗布も行っていないとのこと であった。


↑外科用瞬間接着剤で注射針の穴を塞ぐ。

ただオオサンショウウオの調査地の水質と私たちの調査地の水質は全く違 う。
愛知学泉大学の矢部助教授は「恐らくは問題はないだろう」としながらも「調査 地が汚れた都市河川でもあり、検証した方が望ましい」という意見であった。私たち も日頃の活動において傷が癒えた多くのカメを見ているので、問題がないように感じ ていたが、やはり慎重の上にも慎重を期した方がいいという判断で検証を行うことに した。


(脚注1)
一部の動物愛護団体や愛好家から穴あけ行為に対して動物虐待として不快感 を示される事実もある。動物に関わる掲示板で「穴あけ行為は問題外」「残酷な行為」 というような書き込みも見られる。

(脚注2)
甲長数センチの体の小さなカメにマイクロチップを埋め込むことは不可能で ある。このような幼体のカメのナンバリングには、ごく細い針を使って縁甲板に穴を あける方法を採用している場合があるが、カメの体に影響を与えないように行うには かなりの技術が必要である。また、あけた穴が成長に伴ってふさがる可能性も考えら れるので、「和亀保護の会」では幼体のカメに穴あけを行っていない。

クサガメの幼体

(脚注3)
日本ではあまり普及していないが、飼い犬や飼い猫が迷子になったり盗難にあったり した場合に、より早く間違いなく見つけ出せ、また捨て犬・捨て猫も防止できるとい うことで、動物病院や自治体などでマイクロチップ埋め込みが呼びかけられている。